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魏休煥(ウィ・ヒューハン)のバックボレー 超絶技巧編

ミックスダブルス優勝(ペア金智恩)の魏休煥。韓国男子前衛ならでは、といえる大技、超絶技巧である。サービスリターンに対するポーチボレー。ファーストではなくセカンド(ヘヴィ−スピンのカットサーブ)。むろんサインプレーであり、サーバーの金智恩は魏休煥のスタートとともに右方向に走っている。

 相手、李佳鴻(リーチャーホン)、のリターンは決して悪くない。ショートクロスへのいわゆるツイストであり、カットサーブに対するもっと効果的なリターンをおこなっている。やや浮いた感じもあるが、コースは申し分なく、やはりここは魏休煥をほめるべきであろう。というか唖然するしかない、まさに超絶技巧である。

 参考までにこの後の経過を簡単に。これはミックスダブルス準々決勝。金智恩・魏休煥vs.周秋萍・李佳鴻(台湾)での一コマ、いや数コマ。このボレーは敵陣センター深くをつき、周秋萍はバックでクロスへ、ラリーののち、金智恩・魏休煥のポイントとなった。

 頭の固い指導者はこんなスタンドプレーと眉をひそめるかもしれないし、自信のない初、中級者はすごすぎてとても参考には、とおもわれるかもしれない。それはどちらも間違いだ。このようなプレーからしか学ぶことなどできないと僕はおもう。というか達人のプレーにしか上達へのヒントはない。このようなプレーをみて感じることが上達への近道なのである。

魏休煥は1971年生まれ。ドーハ大会時は35才ということになる。サンム出身であり、将来を嘱望されたエリート選手であったが、このドーハアジア五輪が初出場であり、遅咲きの選手ということになる。身長は180センチ。団体(準決勝日本戦)では出番なし。大会3日目のこのミックスダブルスから登場したようなものだったが、最初から大きな動きをつけ、見事に自分達のペースにひきこんだ。準々で周秋萍・李佳鴻、準決勝玉泉・高川と台湾、日本を代表する男子前衛とあたったが、あらゆる面で圧倒し、韓国前衛の偉大さをあらためて知らしめた。男子ダブルスでは準々決勝で楊勝發・李佳鴻に挑んだが、最強ダブルフォワードにパートナー鄭が大きくテニスをくずし完敗、順位戦でもたちなおれず、中国にやぶれ、入賞はならず。

 

 基本的にはサービスアンドボレー、つまりカットサーブアンドポーチボレーの展開である。ツイストボールを予測していたとは考えにくい。ポーチにいったらアングルショットが飛んできた、というところである。想定外か想定内かはわからないが、ぐっと身体がのびて対応しきった。しかもボールに申し分のないペースさえ与えて。

 インパクト前後では、上下に大きくラケットを動かして(23〜28)、トップスピンを充分に与えている。つまり、この極限状況でもできるだけボールをパンチし、ペースをあたえ、ショットを決定的なものにしようとしているのである。彼は柔らかいタッチもそれは見事であるが、もしこの状況でただつなぐだけならそのタッチの良さ柔らさをいかし、柔らかいボレーを行なうであろう。しかし、ここではそれを選択しなかったということである。

グリップが(バックハンド側に)薄い(バックハンドセミウエスタン)ということもある。劉永東や金耿漢のようなフォアハンドセミウエスタンだったらこうはならない。

 リーチは目一杯だが、安易に裏返らず(相手に背中を見せず)、インパクトの瞬間、いや、そのあとまで、ボールから目をはなそうとしていないことにも注目。ボールに目をつけていこうという強烈な意志は大いに学んでほしい。絶対の基本である。またボレー後の必死のリカバリー(立て直し)もどうか見逃さないように。膝の強さ、全体のバランスのよさがきわだっている。

 このような状況、極限の場面で、このような処理ができるのは、いやしようと考えるのは、およそ韓国男子前衛ぐらいであり、日本ではアンセオリーに属するプレーであるとさえいえるが、韓国ではむしろあたりまえのプレーともいえる。韓国の国内大会(男子のみ)の凄まじいまでのレベルの高さはとても言葉では追いつかない。国際大会というのは、その片鱗が見られる場、といっても言い過ぎではないほど。まあ見たもん勝ちということである。

 

  魏休煥は、劉永東、金耿漢、金煕洙のスリートップとくらべると、フォアボレー、スマッシュがやや落ちるが、バックボレーに関しては互角、ことによると上回る部分があるといえるかもしれない。これは大変なこと、とてつもない高い技術力を有しているということであり、いくところ可成らざりしは無し、といったところか。先日、紹介した彼の基本のバックボレーとよくくらべてほしい。このレンジの広さはそのままスケールの巨大さを物語る。

 しかし、全体の造型こそおおきいが、実際にはシンプル、コンパクトであることも見ての通り。特にテイクバックの簡潔さ、早さは決して見逃してはならない。インパクトの形をつくるのが実に早いのだ。これがもっとも重要なのである。それには左手の補助が大切な役割を担っていることは何度も書いてきた。左手の補助は15コマめぐらいまでつづいており、左手よりリリースされることがイコール フォワードスイングになっている。

 また左手の補助がテイクバックしたときに利き腕の無用な力みを抑え、リラックスさせ、インパクトに向かってパワーが集約していく。それがよくわかる好例かもしれない。

 とにかく左手のサポートの重要性はいくらいってもいい足りないほどだし、これを軽視する選手に未来はないとさえいえる。

 13コマめでバックスイングはほぼ完了しており、そこからぐっとパワーためていく様子が、動画では、如実にわかるが、この辺の力強さはなんともいえず、すばらしい、唸らされる。

 

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